街路網交通流シミュレータAVENUEの概要
an Avdanced & Visual Evaluator for road Networks in Urban arEas
AVENUEの名称
AVENUE は「an Advanced & Visual Evaluator for road Networks in Urban arEas」を意味しています。
AVENUE開発の経緯
AVENUEは1992年に開発をはじめ、バージョン1.0を1993年にリリースしました。その後も基本ロジックの見直しやユーザインターフェースの改良を重ね、2014年3月現在ではバージョン5.1となっています。当初は次の5者で構成されるAVENUE研究グループが主体となって、開発を続けていました。
- 東京大学生産技術研究所(現:東北大学) 桑原教授
- 東京都立大学 片倉教授(現:名誉教授)
- 千葉工業大学 赤羽教授
- 東洋大学 尾崎助教授(現:教授)
- (株)熊谷組
2000年以降は(株)アイ・トランスポート・ラボ が製品化し、開発を続けています。
AVENUE開発の方針
開発当初より、地区レベルでの道路整備や都市開発の道路交通への影響を評価することを目的としているため、次のような方針でモデルを開発しました。
- 東京でいえば新宿副都心や丸の内地区のような、数100m~数km四方におよぶ街区の道路ネットワークを扱えること。
- 車線規制や信号制御といった、交通状況の細部に影響する要因を考慮できること。
- 渋滞損失を厳密に評価できる理論的な車両移動ロジックに基づくこと。
- 街区内での経路選択行動や、迂回・誘導施策を評価できるよう、運転者の経路選択モデルを内包すること。
図1は国内外で適用事例が報告されているシミュレーションモデルとAVENUEを大まかに比較したものです。国内で開発されたモデルは青字で、海外のものは黒字で示しています。横軸は車両移動の詳細度で、車両位置がどれくらいの空間分解能で計算されているかを意味しています。NETSIMやSIPAのような、車両の追従挙動を基本とするモデルの場合は、コンマ数秒おきに車両位置や速度を計算するので、非常に詳細な分解能となっている反面、あまり大きな範囲に適用することが難しくなります。AVENUEでは、後述する「ハイブリッドブロック密度法」とよぶ手法を採用しています。これは1秒ごとに車両位置を求めるもので、車両位置の空間解像度は数m~10数m程度になりますが、その分より広範囲のエリアに適用することができます。
AVENUEの特徴
AVENUEの特徴として、次の5点が挙げられます。
- 「ハイブリッドブロック密度法 」による車両移動計算で、厳密な渋滞の評価が可能。
- 経路選択モデルを内包することで、複雑な形状のネットワークにも対応可能。
- グラフィックユーザインターフェースを用いて、簡便にデータ設定ができる。
- プレゼンテーションや動作確認のためのアニメーション機能を備える。
- オブジェクト指向プログラミングで開発されており、様々な機能追加が容易 に行える。
このうち、3.、4.および5.はモデルを実装したシステムの特徴です。
図2はAVENUEの画面イメージです。車線上を走行する車両や、信号、駐車場といった様々な機能が画面上にあることがわかります。シミュレーションに必要なデータ設定も、同じ画面上で対話的に行うことができます。
以下に、特徴の1.と2.について、もう少し補足の説明をします。
アンチ・ミクロシミュレーション派のためのハイブリッドブロック密度法
ハイブリッドブロック密度法は、道路を車線ごとに10~20m程度の「ブロック」とよぶ区間に分割し、その区間に設定されている交通流特性 に基づき、移動させる交通量を求めるものです。連続量として計算される交通量と、目的地や車種情報を持った離散的な車両を同時に扱うので、ハイブリッドと名付けています。ハイブリッドブロック密度法の詳細は「シミュレーションモデル解説書」をご覧ください。
この手法の最大の特徴は、少ないパラメータで交通状況を再現できることです。現在、市販されている多くの「ミクロシミュレーション」と呼ばれるモデルは、車両の追従挙動を移動ロジックの基本としています。これは、運転者の反応遅れ時間や、車両の最大加減速度、希望速度といった、非常に多くのパラメータを伴うものです。一見、自由度が高く、モデルとしての能力が高いように思えますが、必要とされるパラメータをどのように取得するかという問題や、さらに設定したパラメータの値と、再現される渋滞量との関係が明確でないという問題が指摘されます。つまり、モデルがブラックボックス化しており、たとえシミュレーション結果が良好な再現性を示していたとしても、その基となっているパラメータの設定値がどうなっているか、何を根拠としているのかがわからず、結果への信頼性を得るのが難しくなるものです。仮に、渋滞との因果関係が明確になっているパラメータがあっても、それはたとえば高速道路合流部のようなごく限られた状況で得られている関係であり、それをある程度の規模に渡るネットワーク全体での交通現象に当てはめることには、疑問が残ります。
これに対して、AVENUEでは「道路の容量/飽和交通流率」「自由流での速度」「渋滞時の車両密度」という3つのパラメータのみを用いて、車両移動計算を行います。いずれも実測で容易に得られる量であり、またこれまでに交通工学の分野で長年にわたり研究例が積み重ねられており、多くの場合に妥当な値を示すことができるものです。現在のシミュレーションの利用目的は、ほとんどが渋滞損失を評価するものであることを考えると、「道路の処理能力=容量」と「交通需要」を与えて計算をするハイブリッドブロック密度法のような手法のほうが、より信頼性の高い結果を得ることができるというのが、AVENUEの主張です。
より複雑なネットワークを扱うための経路選択モデル
現在利用できるシミュレーションモデルは、経路選択モデルを内包して起終点(OD)交通量を需要として入力するものと、経路選択モデルを持たず、端点からの発生交通量と交差点の右左折分岐率を設定するもの、の2つに大別されます。とくに後者のモデルの場合は、路線状の経路選択の余地がないネットワークには簡便に適用できますが、網目状の経路選択の余地があるネットワークでは交通量が過大に再現されてしまいます。
より複雑な形状のネットワークに適用するためには、AVENUEのように経路選択モデルを内包することが必要になります。ただし、この場合はOD交通量をどのようにして観測、設定するかが課題となります。
AVENUEの利用事例
これまでの10年近い運用で、AVENUEには100件以上の適用実績があります。主な適用例は次の通りです。
- 道路拡幅、交差点改良、連続立体化の効果
- 高速道路インターチェンジと一般道との接続部の円滑化対策
- 道路工事に伴う車線規制
- 商業施設出店時のアセスメント
- 大規模イベント時の交通規制・駐車場への誘導
- 信号制御方式の改良効果
- ETCの導入効果
AVENUE製品情報ページには、ユーザから寄せられた適用事例が多数紹介されています。
AVENUEの検証と交通シミュレーションクリアリングハウス
AVENUEはこれまでに大学グループを中心に多くの検証を実施し、モデルの性能や特性を評価してきました。その結果はこちらに公開しています。これは、「公共の用に供されるシミュレーションモデルは、そのモデルが持つ特性がブラックボックスではなく、十分に情報公開されたものであるべき」という考え方に基づいています。
この考え方は、学術的な方面でも支持されています。(一社)交通工学研究会では、シミュレーション利用技術の普及促進を図るため「交通シミュレーションクリアリングハウス」を運用しています。「クリアリングハウス」とは公共の情報交換の場という意味ですが、多くのシミュレーションモデルに関する情報を収集し、比較ができるようにするとともに、検証が行われているモデルの利用を推奨しています。AVENUEは交通シミュレーションクリアリングハウスの開設当初から、同ページに情報が掲載されています。
技術文献
AVENUEの開発と適用について、これまでに多くの技術論文が学会等で発表されています。技術論文の一覧は「技術文献」のコーナー をご覧ください。